ここ数年、用途変更確認申請を依頼される案件が増えてきています。
単純に建物の用途が変わるというだけで、工事内容自体がそれほど複雑でないものが多いのですが、既存建物の状態は非常に多様であるため、一筋縄ではいかないものもたくさんあります。
依頼されるお客様は、用途変更確認申請が簡単な手続きと思われている方も多いですが、場合によっては非常に時間もコストもかかることがあります。
そこで、私が関わった案件でこれまで非常に苦労したケースをご紹介します。
既存建物の別の階のテナントに問題があって用途変更確認申請ができないケース
用途変更確認申請を行う際、既存建物の別の階のテナントに問題がないか事前に調査する必要があります。
当たり前のことですが、意外とこれが難しいのです。
私が担当した案件で、別の階のテナントが本来必要である用途変更確認申請を行っていないという事がありました。
現実的には、多店舗展開をしているテナントであればきちんと申請しているかもしれませんが用途変更確認申請という手続きが必要であること自体を知らなかったというテナントさんも意外と多く、無意識で手続き違反を行っているというケースも多くあります。
また、その状況自体をビルオーナーが知らないということも多くあります。申請自体はビルオーナーでなくても各テナントの事業者が行う事ができるため、それぞれのテナントがそれぞて必要に応じてそれぞれの責任で用途変更確認申請を行っているケースも多く、ビルオーナーが知らない所で手続きが進められていることも多いのが実情です。
今回のケースでは、すでに営業されている他の階のテナントが用途変更をされていないとのことで確認審査機関に相談に行ったところ、ビルオーナーから特定行政庁に対して12条5項の報告を行い、手続き違反を行っている階についての法適合性について審査を受けなければ、用途変更確認申請の手続きを進めることができないという回答でした。
しかしながら既に営業している店舗について、他の階に新たに入居するテナントから色々お願いするのは難しく、ビルオーナーに他の階のテナントが手続き違反をしているので何とかして欲しいと相談もしましたが、このような状況で適法性を確認することは難しく、結局のところ用途変更確認申請自体を受け付けてもらうことができませんでした。
他にも、東京都内の物件で、地下1階に飲食店舗が入居しているビルの1階について用途変更確認申請を行ってほしいとの依頼があったときのことです。
東京都安全条例の第7条の2において、地下の飲食店には避難階段か特別避難階段が必要となっているのですが、地下1階への階段は避難階段ではない直通階段のみでした。
この条文自体は平成15年に新たに追加になったもので、地下1階のテナントはそれ以前に入居した飲食店であるため違法ではなく既存不適格なのですが、新たに用途変更確認申請を行う場合は建物全体として市町村の条例に適合させる必要があるとのことで、地下1階の問題を解決しない限り、1階の用途変更確認申請の受付ができないとのことでした。
しかも、設計を行う際には当該テナントの部分について、まず適法性のチェックも含めて設計を行っていくことになるかと思いますが、私が経験した2つのケースでは、設計がかなり進んだ状態でいざ用途変更確認申請の書類を作成しようと考えたタイミングで、用途変更確認申請ができない建物だと分かったため、すべての検討が無駄になってしまいました。
その他にも、用途変更確認申請が必要な設計業務を依頼されて、建物の事前調査に行ったところ、依頼主が入居を希望している建物の避難経路等に法適合していない箇所が発見されて、入居を断念するというケースは多々あります。
ですから、まず、用途変更が必要な案件の場合は、設計に取りかかる前に、当該部分以外の他のテナント等によって用途変更確認申請ができない物件となっていないか確認することをお勧めします。
建物が免震構造で大臣認定を取得しているために構造耐力上の危険性が増大しない事を確認するのが非常に困難!
用途変更確認申請を行いたい建物が免震構造で、大臣認定を取得している建物だった際に起こった問題です。
建物が免震構造で、安全性も高いので資産価値も高いと考えるかもしれませんが、用途変更確認申請の手続きがかなり複雑であるということが分かりました。
当該建築物(既存)は、構造の大臣認定(告示免震に非該当のため、時刻歴応答解析を行った。)を取得している法20条第1項第一号の建築物でした。
民間の確認審査機関に相談したところ、この建物について用途変更確認申請を行う場合、法87条(用途変更に対する準用規定)により、法20条(構造関係規定)は直接的には適用されないが、大臣認定内容が変わると考えられるので、構造耐力上の危険性が増大しない事の確認のために、再度大臣認定を取得するか、前回大臣認定を申請する際に利用した指定性能評価機関に、技術的な見解・問題が無い旨の確認をする必要があるとの指摘を受けました。
確認審査機関の考え方としては、「法20条第1項第一号の建築物については法86条の7に定められているような緩和規定が一切なく、法20条第1項第一号の建築物については、新築で建設中の建物の場合、軽微な変更が生じた場合は、都度、原則大臣認定を再取得しなければならないということをふまえると、大臣認定の再取得というのが最も適切な方法である」という見解でした。
しかしながら、他の設計者が設計した建物の大臣認定を再取得するというのはそんなに簡単にできるはずもなく、結局のところ民間の確認審査機関では受け付けていただくことができず、最終的には特定行政庁に相談するということになりました。
さらに、ビルオーナーに確認したところ、当初の大臣認定の書類自体が見つからないということで、その旨を特定行政庁に相談したところ、大臣認定の書類がなければ判断のしようがないので、受付自体ができないという回答であったため、1か月以上かけて倉庫等を探していただき、なんとか大臣認定の書類を取り寄せることができたため、無事用途変更確認申請を進められたということがありました。
構造検討や度重なる協議のために非常に時間がかかり非常に苦労することを考えると、同じような案件を受ける場合には大臣認定を取得した建物の用途変更確認申請は大変だという認識を持って、設計料を算出することをお勧めします。発注される側であれば、条件等にもよりますが、その分の費用を見込んでおく必要があるかもしれません。
同じ建物の別の階で用途変更確認申請を行っているテナントがあるがその詳細が分からなくて困った!
完了検査を受けている建物で台帳記載事項証明書に延床面積の記載があるものの、新築時の確認申請書類がなく、各階床面積の内訳が不明だった建物の用途変更確認申請を行ったときのことです。
民間の確認審査機関に相談したところ、各階平面図を復元して面積根拠を作成してくださいということでしたので、残っている設計図書から壁芯を追い出した上で現地調査を行い、根拠となる面積表を作成しました。そして、その面積で申請を進めていったのですが、消防同意の際に消防署から連絡があり、以前他の階で用途変更確認申請を行っているものの図面と各階面積が整合していないため、整合させてほしいとの内容でした。
ビルオーナーに確認したところ、関係する書類が無いとのことで、消防にその旨を伝え、その数値を確認させてほしいと言ったところ、個人情報保護のため、図面は見せられないとのことでした。
結局、そこから2週間程度かかって、他のテナントが出している用途変更確認申請の申請書を入手したのですが、結局面積の算定根拠が曖昧で、こちらが作成した面積表の方が精度が高いと判断し、消防署の担当者といろいろやりとりした結果、今回の面積をビルの各階床面積の数値として今後採用する旨の文章をビルオーナーに提出していただき、なんとか手続きを進めることができましたが、消防で約1か月止まってしまったために、スケジュールがかなり伸びてしまったことがありました。
ですから、まず、用途変更が必要な案件の場合は、設計に取りかかる前に、当該部分以外の他のテナント等が用途変更確認申請を行っていないか確認すると共に、関連する図面を入手することをお勧めします。
完了検査済証が無いと用途変更確認申請ができないのか?
完了検査を受けていない建物でも、用途変更確認申請が可能な場合もあります。
以前は完了検査済証がない場合、既存建物の適法性を担保するものが無いということで、民間の確認審査機関では用途変更確認申請を受付してもらうことができませんでした。
しかし、平成26年に国土交通省より、既存建築ストックの有効活用や不動産取引の円滑化の観点から、「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関等を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」が公表され、それ以降少しずつではありますが検査済証がない既存建物でも民間の確認審査機関で用途変更確認申請が行えるようになってきています。
とはいえ、民間の確認審査機関に相談をしても、「あくまでガイドラインであり、完全に既存建物の適法性を示すことは困難であるため受付できません。」というケースが多いことも事実です。また、実際に受付をしてもらえる場合でも、既存建物の適法性を示すことは容易ではありません。たとえば鉄筋コンクリート造であれば、梁や柱のコアを一部抜いてコンクリート強度を調べたり、非破壊検査によって配筋を調べることが可能ですが、そのための検査や検査によって破壊した部分の修復や、民間の確認審査機関が作成する適法性に関する報告書の作成など、場合によっては数百万円のコストがかかることがあります。
あくまで一例ですが、私が実際に担当した延べ床面積1,500㎡程度の集合住宅で、竣工図が一式存在する状態(構造計算書は無し)で用途変更確認申請ができる状態にするまでに、約500万の費用がかかりました。
また、検査をした結果、コンクリートの圧縮強度が足りていないような場合は、構造そのものの見直しが必要になり、さらに難易度が上がるだけでなく、必要な経費も計り知れません。
ましてや、確認申既存建物の施工図や竣工図もない状態であれば、図面の復元も必要になります。
ですから、できないかと聞かれれば、可能性は十分にあると答えますが、たいていの場合はコストが非常に高くなるので、あまりお勧めはできないというのが、今のところの結論になります。